天声人語の書き出し・結語【名文集】森づくり

12 月 17th, 2008 by oniburo013

天声人語の書き出し・結語【名文集】

『森づくり』

芝生というのは、百パーセント芝生にみえてもカタバミ、ネジバナなどの他の草が二割はまじっているそうだ。ある婦人がそれをきれいに抜き取って「純粋の芝生」にしようとした。

だが、作業を終えたら、芝生はたちまち虫害で全滅してしまった。生態系とはそういうものだ、まじりものがあってこそ安定するのだ、という話を横浜国大の宮脇昭教授にきいた。なるほどこれは草木だけの話ではないな、と思いながら聞いた。

工場や住宅街の森は、空気を浄化し、音を防ぎ、鳥や虫を呼ぶだけではなく、公害の監視者でもある。ふるさとの森が枯れるとき、それは人間の生存に対する重大な警告になる、と宮脇さんはいう。

今日は秋分の日。カヤツリグサやエノコログサが風にゆれながら「小さな秋」をたのしんでいる。

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天声人語の書き出し・結語【名文集】富士五合目

11 月 27th, 2008 by oniburo013

天声人語の書き出し・結語【名文集】

『富士五合目』

遠くからは、ただ青くかすんで見えるだけの富士の中腹に、こんなにもたくさんの花が咲いているとは思わなかった。「朝日カルチャーセンター立川」の野外研修に便乗して、富士の五合目あたりを歩いた。

奥庭入口でバスを降り、御庭の方向へ歩く。このあたりはまだ緑が濃い。タカネバラがかすかに香り、「深山の顔」ハクサンシャクナゲが咲いている。樹下の暗みには一面、コケモモの花が咲きこぼれ、ベイバナイチヤクソウが紅色の鈴を鳴らしている。

「葉と枝は人に見せ、大切な根は人に見せない」。

この高見順の言葉は、根源というものの大切さと、人に見せない部分を見通すことの大切さとを教えてくれる。

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天声人語の書き出し・結語【名文集】追憶の月

11 月 26th, 2008 by oniburo013

天声人語の書き出し・結語【名文集】

『追憶の月』

きょうから八月が始まる。真夏の昼の光がアスファルトの道路を灼(や)き、道ばたのサルスベリの花を灼き、ムクゲの花を灼いている。こんがりとこげたように変色した泰山木(たいさんぼく)の花びらが一枚、茂みに落ちている。

葉月、あるいは月見月。八月は水の季節である。南の島では、サンゴ礁岩に沿って泳ぐコバルトスズメの群れが鮮烈な青をちりばめていることだろう。銀河、線香花火、盆踊り、露天、ラムネ、スイカ、朝顔、キャンプ、水遊び、波乗り、絵日記、大文字焼き、お化け大会。八月は子供たちにとって中身の濃い月だ。

「原爆で盲(めし)いとなりて生くる老いなぜ分裂するかと涙ながせり」(山崎久恵)という歌もあった。この被爆者の嘆きを受けとめるように、今年の原水爆禁止世界大会では大同団結が進んだ。原水禁運動を「八月の行事」に終わらせてはならない。

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天声人語の書き出し・結語【名文集】水の日

11 月 25th, 2008 by oniburo013

天声人語の書き出し・結語【名文集】

『水の日』

きょうは「水の日」だ。水ということばから私たちは何を連想するか。水泳、水郷、噴水、香水、水田、夏の露、水鉄砲、あるいは、水を向ける、水をさす、水のしたたるような……。年輩の人なら打ち水、散水車、行水、つくばい。

梅雨のころ、日光市の植物園裏を歩いていたら、大谷川のほとりに5、六十の石仏が雨に打たれて黙然とすわり続けているのに出あった。江戸時代のものだろう。コケむしたお地蔵さんである。濡れ色に光る石仏のはだに数百年の歳月を見て思わず立ちすくんだ。

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天声人語の書き出し・結語【名文集】無一物中無尽蔵

11 月 24th, 2008 by oniburo013

天声人語の書き出し・結語【名文集】

『無一物中無尽蔵』

一週間ほど前、信州の高原を歩いていて、にわか雨に打たれた。傘をさして、人気のない道を歩いた。カラマツの林の緑にヤマホタルブクロが咲いていた。暗い感じの赤紫色の花がぬれて上下にゆれている。長さ20センチもあるミミズが現れて、道をはっている。雨を吸ったダケカンバの幹がさんご色に輝いている。

「無一物中無尽蔵」は、一物もない中にこそ尽きることのない宝がある、という意味だろうか。私たちには、文明性の原理に頼る心があり、同時に、自然性の原理に回帰しようという心がある。そして私たちはしばしば、文明性の原理を拒み、つかのま、文明的なものが一物もない世界に、無尽蔵の宝を求めようとする。

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天声人語の書き出し・結語【名文集】信玄堤

11 月 23rd, 2008 by oniburo013

天声人語の書き出し・結語【名文集】

『信玄堤』

昔、武田信玄はいった。「甲府盆地を水から守れない者が天下をとるなどといっても、もの笑いのたねになるだけだ」と。当時、釜無川と御勅使川の合流地点は大雨のたびにはんらんをくり返していた。

信玄はそこに「かすみ堤」(信玄堤)を築き、水を治めるのに成功した。その面影が残る堤防を見に行って、驚嘆したことがある。信玄は力で水を征服しようとはしなかった。自然の地形を巧みに利用し、いくつもの堤防を重なりあうようにしてつくった。そのすき間に水を誘い、遊水池に導くやり方である。

国鉄の鉄橋のうち、ただちに改修するのが望ましい危険な橋脚は6000基もあるという。問題は富士川だけではない。

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天声人語の書き出し・結語【名文集】花火

11 月 22nd, 2008 by oniburo013

天声人語の書き出し・結語【名文集】

『花火』

花火大会というのは、全国各地で年間千回以上も開かれるそうだ。最近は、花火好きの住民が金を出しあって、自前の花火大会を開くこともあるらしい。打ち上げ花火の生産額は年間約四十四億円である。それだけの花火が毎年、夜空に消える。

広島の原爆体験を語るときも「女は醜かった。あんなになると女のほうが汚く見えるんじゃね。髪は焼け焦げてしもうとるし、服にモンペだけというだぶだぶした姿じゃから、焼けるとだらりと垂れて」と冷静な目を失わない。

そのあやさんが、花火について語っている。「真っ黒な空に花が咲いて、いろいろに変わって消える。あれは消えるからええんじゃね」。

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天声人語の書き出し・結語【名文集】ゆきあいの空

11 月 21st, 2008 by oniburo013

天声人語の書き出し・結語【名文集】

『ゆきあいの空』

きのうは立秋だった。高い空のどこかで、森の闇や熱帯夜の都会のどこかで、夏の風と秋の風が行きあって、あいさつをしている。そろそろ交代の時期ですね。いやまだまだ。

だが、私たちがいう白い花は「じつは完全に白いのではなく、ごく薄い黄色といったほうがほんとうである」という安田さんの指摘はおもしろい。純白と思える花を、たとえば白砂糖と比べると、淡い淡い黄であることがわかる。私たちはものごとを黒か白かでわりきりたがる。白い花を見るときにも、つい純白思考が働くのだろう。

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